売り専掲示板
2021年05月12日
彼は地方のある小劇団に所属していた。僕も舞台関連の仕事をしていて、彼がいた劇団とは少なからず付き合いがあった。
いい男だった。どんな男よりも男らしくて、どんな女よりも女らしい。性別を超えた人間的魅力にあふれる人物だった。彼が躍動する舞台を見ながら、きっと小劇団の枠を超えてもっと広い世界に羽ばたいていく人間になるだろうな、と当時は思ったものだ。
ただ、劇場公演だけでペイできるほど人気の劇団ではなかった。役者だけでやっていける稼ぎもなかったようで、劇団員はほぼ全員アルバイトをしていた。それは彼も例外ではなく、一度、うちの会社に欠員が出た時、彼をアルバイトに誘ってみたところ丁重に断られたので、もっと実入りのいいアルバイトをしているのだろうな、とは思っていた。
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